2013年2月18日公開
 
りたけさんの絵本との出会いが、起業の大きなきっかけ
-どのような経緯で、人気絵本作家である鈴木のりたけさんと一緒にアプリを開発することになったのでしょうか。 池谷:実は私が起業しようと決意した大きなきっかけは、のりたけさんの絵本との出会いにあるんです。
当時、まだぼんやりとですが「『未就学児向けの知育』というテーマで起業したいな」という思いがあって、ある日、勉強がてら本屋の絵本コーナーに足を運びました。
恥ずかしながら、それまで自分の子どもに絵本を読み聞かせるということをあまりしたことがなかったので、「絵本なんてどうせ定番ものしかないんだろうな」とちょっと高をくくっていたんです。ところがのりたけさんの「しごとば」が目に入って、何気なくページをめくったらとても面白くて。知らない間に絵本はこんなに進化していたのか、と驚いてしまいました。
しかも作者プロフィールを見たら、なんと自分と同い年。厳しいはずの出版業界で新しいチャレンジをしている人がいるということに感銘を受け、早速買って帰りました。

「しごとば」の面白いところは良い意味で不親切というか(笑)、色々な職業に関する専門用語がそのまま出てくるので、子どもには難しくてその都度質問されるんですよね。
ただよく考えてみたら、人生において難しいことや知らないことに出会うのは当たり前のことで、そういう「わからない」ことを絵本で体験できるのはとてもリアルで良いことだな、と思いました。また、親子が一緒になって「なんだろうね?」と会話できる雰囲気が自然と生まれることも素晴らしいと思いました。
「テーマに社会性があって、親子が一緒に楽しみ、考え、新しい発見ができる『しごとば』のようなサービスを自分も作りたい!」と強く思い、いてもたってもいられずその日のうちにネットで情報を検索して「会いたいです」とメールしたんです(笑)。

鈴木:池谷さんとは初めてお会いした時からとても盛り上がりましたね(笑)。知育や教育に対する想いにも共感する部分が非常に大きかったので、いつか一緒に仕事ができたらいいな、と思いました。
実際に作品を提供しようと思ったのは、単純に「絵本をアプリ化する」というのではなく、「どのような形でアウトプットすると、より多くのユーザーに継続的に楽しんでもらえるか」ということを、池谷さんが非常に戦略的に考えていらっしゃったのが大きかったです。
スマートデバイス向けの絵本というのはとても新しい分野なので、純粋に「やってみたいな」という好奇心はあったのですが、それ以上に作品を出した後の仕組みまでをしっかりと考えているのが素晴らしいと思い、知育サービスに対するビジョンをしっかりと持っているスマートエデュケーションさんとだったら、良い作品を作ることができるのではないかと思いました。

池谷:まだまだ業界黎明期のこのタイミングで、のりたけさんのような人気作家さんが当社のために作品を作ってくれると言って下さったときは、本当に光栄で嬉しかったですね。

「みんなでつげっと」の楽しみ方

アプリ「おやこでスマほん」を、まずは無料ダウンロード。起動すると、中の本棚に「みんなでつなげっと」がラインナップされています。
鈴木 のりたけ グラフィックデザイナーを経て、2009年に絵本作家としてデビュー。著書に「しごとば」(ブロンズ新社)シリーズ、「ぼくのトイレ」(PHP研究所・第17回日本絵本賞読者賞受賞)、「かわ」(幻冬舎)、「おしりをしりたい」(小学館)などがある。 こんな子どもでした 好きだった本は、かこさとしさんの「かがくの本」シリーズ。今でもかこさんの絵本は絵本作家としての発想の原点となっています。子どもの頃はやんちゃで、キン消しを投げ合って遊ぶ「キン消し戦争」が大好きでした。口喧嘩が強かったので、口喧嘩でお金を稼げる(?)弁護士になりたい、と思っていました。
一人ひとりの人物や、人と人との関係には様々な「ドラマ」があるということを伝えたい
-「みんなでつなげっと」は、どうやって生まれたのでしょうか? 鈴木:作品の制作にあたっては、まず「絵本がタブレットで提供される意味はどこにあるのか」、「自分だったらスマートフォンやタブレットで何がしたいだろうか」ということを一番に考えました。
絵の力を使って楽しませるのが僕の本業なので、まずはそれを武器にしないといけないな、と。そこで、1枚の大きな絵のなかをぐるーっと見回しながら巡ることができたら、すごく面白いんじゃないかと思ったんです。
カードを組み合わせるというゲームにしたのは、娘が絵合わせのアプリで楽しそうに遊んでいるのを見て、「これだ!」と思ったのがきっかけです。ただその時娘が遊んでいたのは、単純に同じ絵を合わせるゲームだったので、1人で夢中になってしまっていて、親が入っていくことができなかったんですよね。
スマートエデュケーションのアプリで最も大切なのは「親子で楽しむ」ことなので、だったらカードの絵に何か意味を持たせて、それについてコミュニケーションができるようなものにしたらいいんじゃないかと考えました。

「まち」や「ショッピングモール」といった絵のなかの社会で関連のある組み合わせを見つけるというのは、親が人生の先輩として色々なことを教えられますよね。これなら社会性もあるし、親子で楽しむことができるのではないかと思いました。「つなげっと」は社会学習絵本ということで提供されていますが、最初から子どもに社会学習をさせようと思って考えたわけではありません。「楽しんでいるうちに勉強になっちゃった」というものを作りたいなと思い、アイディアを集約させていきました。

池谷:ある日、のりたけさんが1枚の大きなラフ画と何枚かの手書きのカード、そしてダンボールで作ったiPadの枠を持ってきて、「こういうことがやりたいんだよ」と、「つなげっと」の実演をして下さって(笑)。一発でイメージが湧いて、これでいこう!と即決しました。最初の段階から素晴らしい完成度だったので、「さすがだな」と思いました。ほぼ100%のりたけさんの力で生まれた作品です。
-のりたけさんが今回の作品づくりでこだわったのはどんなところですか? 鈴木:スマートフォンやタブレットはデジタル表現が多い世界なので、あえてアナログ感を大事にしようと思いました。また、画面を見た時にまるで広い世界を見回しているようなダイナミズムを感じられるような絵にしたいな、と思いました。

池谷:地図はもちろん、カードの文言一つひとつまで丁寧に作ってくださっていて、全て見てみたくなるような作り方をされているところが素晴らしいと思いました。のりたけさんはとても研究熱心ですし、同じものづくりをする人間として見習いたいところが沢山あります。

鈴木: 作品づくりを進めるにつれて思ったのは、このゲームを楽しくする要素は、地図よりもカードの面白さにあるのではないかということです。「カードが沢山出てきて賑やかだね」というところで終わらず、一人ひとりの登場人物を魅力的に見せることが何よりも大切だと思い、1枚1枚時間をかけて作成しました。
現実の世界でも、街を歩いていると周りは知らない人ばかりですが、友達になればその人なりの魅力や面白さを絶対に発見できると思うんですよね。そういうことを大事にしないと、結局人に共感する心も生まれないような気がしていて、「『一人ひとりの人物』や『人と人の関係性』には色々なドラマがあるんだよ」ということを、しっかりと伝えていきたいと思いました。
-地図に出てくるお店の名前もダジャレ満載で楽しいですよね。ついつい夢中になって絵を眺めてしまいます。 鈴木:絵の中に目を止められる要素が沢山あればあるほど、絵の世界に入りこんでいけると思うんです。本編とは関係ないところの面白さは、紙の絵本を作るときにも大切にしています。 子どもたちからもよく同じような感想をもらうのですが、こういう面白さは絶対に必要だと感じています。

池谷:僕が感動したのは、のりたけさんが「ゲームの最後におまけを作ろう!」とおっしゃったんです。
ただでさえ作画数が多くて大変なはずなのに、ゲームが終わった後でもじっくり楽しめる仕掛けを作りたい、という想いに感銘を受けました。
おまけでは敢えてゴールのない問いかけをしています。ゲームをクリアして終わりではなく、絵そのものを心ゆくまで眺めて楽しんでほしいという想いが込められています。
この作品を起動する度におまけは変化するので、是非最後までプレイして、おまけの部分も味わって頂きたいですね。
-のりたけさんがこれだけの想いをこめて作った作品を支える立場として、池谷さんがこだわったのはどんなところですか? 池谷:まずはのりたけさんの作品のアナログ感や温かさを引き立てるにはどうしたらいいだろう、ということを考えました。そこで考えたのが、ゲーム内の音をすべて生音にすることです。ボタンの音もギターの生演奏の音なんです。音楽制作を担当頂いている栗原さんには、「こんなこと初めてだ」とびっくりされてしまいましたが(笑)。
作品の温かさを大事にする一方で、地図上のキャラクターの配置などについては、すべてプログラムを組んで、効率的に作品が作れるようなシステムを構築しました。しっかりとした制作エンジンを提供することで少しでも工数を減らすことができれば、のりたけさんがライフワークとして長く作品を提供してくださるかなと思って(笑)。

鈴木:アナログ感満載の「つなげっと」は実は非常にシステマティックな仕組みで作られているんですよね。制作工程ひとつとっても、本当に色々なアイディアとか技術が詰めこまれているので、私も勉強になります。
「みんなでつなげっと」はスマートエデュケーションの企業理念そのもの
-リリース後、Apple StoreやGoogle Playで大きくフィーチャーされましたが、どういった点が評価されたのでしょうか。 池谷:Apple社やGoogle社からは「まさにタブレットの理想を具現化したサービス」だと高い評価を頂いています。地図全体を俯瞰しながら、興味のあるところをピンチアウトして見てみるという「つなげっと」の世界観は、タブレットならではの面白さがありますよね。
しかも家族や子どもをターゲットにしているというのも、タブレットを使った新しいライフスタイルを提案できるという観点から大きく取り上げて頂けるポイントとなっているようです。Google社はアメリカでも「つなげっと」をフィーチャーしてくれていて、日本を代表するコンテンツとして紹介してくれています。
-スマートエデュケーションにとって、この「みんなでつなげっと」はとても大きな存在なんですね。 池谷:そうですね。社会性のあるテーマで、親子で共に楽しめるという「つなげっと」のコンセプトは、当社の企業理念そのものなんです。「つなげっと」を見せると、我々の目指す姿をすぐに理解して頂けるので、会社のパンフレットのような存在です。私自身が大きな影響を受けたのりたけさんと一緒にものづくりができたということについても、とても嬉しく思っています。

鈴木:私にとっても今回の挑戦は、とても大きな意味を持っています。私が絵本作家になりたいと思った根底には「絵の力でコミュニケーションしたい」という想いがあったのですが、いつからか絵本の既成概念や絵本らしさにとらわれてしまっているような気がしていました。
今回初めてスマートデバイス向けの作品を作ってみて、改めて「子どもたちを『絵の力』、『絵の魅力』にひきつけたい」という自分の絵本作家としての原点に立ち帰ることができた気がして、「そこから外れなければどんなことだってやってみよう」、「好奇心をもってやることが自分の原動力なんだ」ということを改めて確認できまし。今後、紙の絵本を作る上でも新しい取り組みができるのではないかと感じています。
-それは、新しい作品が今から待ち遠しいですね。今後、挑戦してみたいことは何かありますか? 鈴木:「つなげっと」を作っている間にも新しいアプリがどんどん出てきて、「なるほど、こういうやり方もあったのか」と思うことが度々ありました。スマートフォンやタブレットの世界は本当にスピードが速くて、みんながマーケットに次々と新しいアイディアをぶつけて来るので、とてもスリリングな業界だと感じています。自分自身を盛り上げていくにはとても良いフィールドなので、また何か面白いことができたらいいな、と思っています。

池谷:のりたけさんは本当に色々なアイディアをお持ちの方なので、タブレットやスマートフォン市場がこれからどんどん拡大するなかで、また一緒に新しいことに挑戦できたら嬉しいですね。

鈴木:今は情報が溢れすぎていて、表層的なところだけを見て全てを知ったような気になってしまうことが多々あると思います。絵本はひとつのテーマを深く掘り下げた厚みで勝負できる数少ない媒体です。世の中のことを自分自身の力でどんどん掘り下げていくと、面白いことを沢山発見できるんです。自分で納得いくまで突き詰められることが、自分にとっての絵本づくりの最大の魅力だと感じています。これからも絵の力とテーマの面白さの両方をもつ楽しい作品を提供していきたいと思っていますので、是非楽しみにしていて下さい。
取材後期
絵本「しごとば」では、「プロの世界でも格好良いだけではなく、失敗したり迷ったりもするんだよ」という等身大の人間像を伝えたかったというのりたけさん。
「つなげっと」に出てくる登場人物も、一人ひとり本当に面白くて、何度見ても飽きることがありません。我が家では子どもと抱きつきながら「つなげーっと!」と言う遊びも流行っています(笑)。
ただ今新シリーズを絶賛制作中とのことですので、皆さん是非お楽しみに!
取材&文:大澤 香織 フリーランスライター。6歳男子+3歳男子の母。これまで塾や幼児教室の講師を経験するなど、「教育」に強い興味あり。絵本大好き&子どもと歌を歌うのが大好きで、家族そろってスマートエデュケーションの知育アプリのファン。
 
 

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