2013年7月22日公開
 
ICTデバイスは、教室と社会をつなぐ「窓」
-山内先生は、普段はどのような研究をされているのでしょうか? 情報化社会における学習環境のあり方について研究しています。ITを活用したアプリケーションの開発やWebベースの学習システムの研究をはじめ、リアルな場でも、どのような学習環境であれば人は学習しやすいのか、21世紀の社会で人が賢くなるためにはどういう仕組みが必要なのか、などについて研究をしています。 -「教育現場でのIT活用」は世界的にも注目されているテーマだと思いますが、日本もしくは海外で、何か面白い事例などはありますか? 例えばアメリカの小・中・高校では「反転授業」という新しい学習スタイルが広がっています。
従来は、「授業は学校の教室で受ける。家では授業の復習や応用問題を行う」というスタイルが一般的でしたが、この「反転授業」では、「授業は家でオンライン視聴し、教室では先生と一緒に課題にとりくむ」という手順で学習を進めていきます。これまでとは反対に「授業を受ける」こと自体が宿題になるのです。
基本的なことをオンラインにまかせ、より難しい課題を先生と生徒が対面で取り組むことで、授業時間はさらに有意義なものになります。アメリカにおける研究でも、「高校での落第率が劇的に下がった」、「生徒の学習評価があがった」など、実際の効果も出てきているようです。これは非常に面白い流れだと感じています。

同じくアメリカの事例で面白いものとしては、Skypeがニューヨーク・フィルハーモニックと提携し、ニューヨーク・フィルの指揮者と子どもたちが、PCを通して会話ができるようなプログラムを各地の小・中学校で展開しています。
このプログラムでは、ICTデバイスが教室と社会をつなぐ「窓」としての役割を果たしています。担任の先生ひとりの力では実現できないようなことをICTデバイスが可能にしてくれるのです。ITを通して子どもたちと社会との接点が生まれ、色々な体験ができるチャンスが広がっているというのは、素晴らしいことだと思います。
-教室で授業を聞いているだけでは、今やっていることが社会に出て何の役に立つのかピンとこないこともあると思いますが、ITの力を借りることで先生と一緒に難しい課題に取り組んだり、社会との繋がりをリアルに体感できたりすると、子どもたちの学ぶ意欲もアップしそうですね。 そうですね。色々な経験をすることで、子ども達にとっての「学ぶ意味」も変わってくると思います。
今までは「教育×IT」というと、「IT」か「リアル」か、というように対立した構図で語られることが多くありましたが、二者択一ではなく、「『IT』と『リアル』をどのように組み合わせれば、より豊かな学習環境を作ることができるか」を追求することが重要です。
親御さんも学校も、「子ども達には幅広い経験をしてほしい」、「様々な人とコミュニケーションをとるチャンスを与えたい」という思いがあると思いますが、ICTデバイスは、まさにその可能性を広げてくれるものだと思っています。
-ITを使って様々な体験をすることで、子どもたちが将来の夢や目標を見つける可能性もありますよね。 もちろん、そうですね。ただ、労働環境がめまぐるしく変化する今、「2011年に小学校に入学した子ども達の65%が、大人になったときに、現在存在しない職業につくだろう」などと予測するアメリカの研究者もいます。
例えば「情報セキュリティーマネージャー」や「ソーシャルメディアコーディネーター」などの職業は、10年前には存在しませんでした。
時代によって社会システム全体が変化し、仕事の質もどんどん変わってきているので、「僕は将来○○になるんだ!」という決意が20年続く時代ではなくなってきています。
自分の関心のあることと社会でおこっていることを単純につなげるのではなく、色々な物事をより複雑に、深く考えられる力を身につけておかなければ、いきなり社会の荒波に出て、「さて、これからどうしようか・・・。」ということになりかねません。今まで以上に、自分の頭で考える力が必要とされると思います。
-そうなると、親として、子どもたちにどのような経験をさせるべきなのか、何を与えるべきなのか、責任重大のような気がしてしまいます。 確かに変化の激しい時代を生きていくということは、大変なことかもしれませんが、「将来が予測できない」ということは、どんな可能性でも開かれているということです。
親自身が、これからの子ども達には色々な選択肢がある、ということをポジティブにとらえて、楽しむことが大事だと思います。
昔は「1回受験に失敗したら人生おしまい」という時代だったかもしれませんが、今は失敗しても、そこからまた開かれた未来に向かって進んでいくことができる時代です。
そういうチャンスがあることを、子どもたちに見せていくことが大人たちの役割だと思いますし、そういった点でもやはりITを社会とつながる「窓」として活用していくことは、非常に有益なのではないかと思います。
山内 祐平 東京大学大学院情報学環准教授。
情報技術を用いた学習環境のデザインについて、開発研究と
フィールドワークを連携させた研究を展開。
教育工学の立場から、大学・企業・教育現場をつないだ実践的研究プロジェクトを展開するNPO(特定非営利活動法人)、
Educe Technologies(エデュース・テクノロジーズ)の代表理事を務める。
著書に「ワークショップデザイン論―創ることで学ぶ」(森玲奈氏、安斎勇樹氏と共著・慶應義塾大学出版会)、
「デジタル教材の教育学」(東京大学出版会)など。

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/professor.php?id=393
ブレットが「鏡」となり、親と子の豊かな対話を映し出すような使い方が理想
-SNSなどの様々なWebサービスやスマートフォン・タブレットの普及で、ITの良さを実感している親御さんは非常に多いと思いますが、その一方で、小さい子どもに使わせるとなると、懸念を感じる方が少なくないという印象を受けています。 例えば長時間の使用など、使い方によってはスマートフォンやタブレットが子どもたちに悪影響を及ぼす可能性もゼロではないので、親御さんが懸念をもたれる気持ちはよく理解できます。ただ、小さい子どもに与えることに慎重になってしまう背景には、単純な「未知のものへ恐怖感」もあるのではないかと思います。
スマートフォンやタブレットに何ができて、何ができないのか。親として何をしたらよくて、何をしたらいけないのか。こういったことがまだ世の中に明確に示されていないので、親御さんが不安を感じてしまうということもあるのではないでしょうか。
最大のポイントは、スマートフォンやタブレットが、「『人』と『人』とをつなぐもの」、「外の社会とつながるためのツール」であることを理解してもらうことではないかと思います。先ほどお話したSkypeとニューヨーク・フィルのように、ITを使えば簡単に会えないような人とつながることもできますし、オンラインで手軽に有名な先生の講義をうけることも可能です。
小さいお子さんの場合は、タブレットやスマートフォンが親子の間にあって、対話を映し出す「鏡」として使われることが理想ではないかと思います。「『コンピューター』対『子ども』」という閉じられた世界で完結するのではなく、親子で一緒に学び、楽しむために、タブレットやスマートフォンをどのように使えばいいのか、ということをしっかりと理解してもらえれば、使ってみようと思う親御さんも自然と増えていくのではないかと思います。

-スマートエデュケーションも、「テクノロジーを通して、家族や友達とのふれあいの時間をより豊かにしたい」という強い想いをもって、サービスを作っています。 私自身も、スマートエデュケーションさんが「親子のつながり」をとても大切にしてアプリを作られているというところに、強く共感しています。「スマートエデュケーション」という社名もいいですよね。「スマート=人間が賢くなる」ということなので。
アプリを使って親子や友達同士の対話が生まれるというのが、こういったサービスの一番の価値であり、本質だと思います。親と子が対話したくなるような気持ちになり、その対話の中で新しい気付きや発想が生まれ、新しい学習につながっていくようなアプリこそが良質なアプリだと思います。
ユーザーとなるお父さん、お母さんは日々忙しいので、アプリを子どもにひとりで使わせることもあるかもしれません。ただ、たとえそのような時間があったとしても、後で話を聞いてあげる、褒める、質問するという姿勢が大切かな、と思います。
どもたちが気軽にITに触れられる環境をつくり、未来を切り拓く手助けをすることも親としての重要な役割
-知育・教育サービスを提供する企業が日本でも増えてきていますが、こういった企業が最も大切にしなくてはいけないことは、どんなことでしょうか? 確かに、最近教育関連のベンチャー企業が話題になることが多いですね。少し前のアメリカ西海岸の動きを追随しているような印象があります。インフラが整い、タブレットも普及してきたので、可能性を感じている人が増えてきているのだと思います。
ただシビアな言い方をすると、今は芽がいっぱい出ているだけの状態なので、これから淘汰されていく企業も増えていくでしょう。アメリカでの流れを見ても、ユーザーが満足できる良質なサービスを提供している企業だけが生き残っています。
教育や学習の領域は、技術力の高さだけでは支持されません。本当に学習者、つまりユーザーのことを考えられる企業のみが生き残ることを許される厳しい世界です。子どもたちのことや学習のことを本当に理解して、「あってよかった」と心から感謝されるサービスを作らなくてはいけないと思います。
-小さい子ども向けの知育・教育サービスとなると「ただ面白ければ良い」というのではなく、子どもの心や身体の発達を考慮しながらサービスを作るということが重要ですね。 数十年前に子ども向けのテレビ番組が始まったとき、今と全同じような状況でした。子ども向けの教育番組としては、セサミストリートがいちばん早かったと思いますが、この時は、テレビ局のプロデューサー、研究者、パペットをつくるアーティスト達がチームを作り、どうやって番組を作っていったらよいかを一生懸命に考えたそうです。知育アプリに関しても同じような取り組みが必要だと思います。
スマートエデュケーションさんが教育関係者に声をかけて、一緒に研究していこうという姿勢をもたれているのは、この流れのなかではとても自然なことのように感じていますし、むしろそうでなければいけないと思います。
-今後一緒に研究を進めていく上で、スマートエデュケーションに期待することは、どんなことでしょうか? 先程もお話したように、親子のコミュニケーションを豊かにする良質なアプリを、是非作り続けてほしいと思います。特に小さい子ども向けのアプリは、国境を超える存在だと思うので、日本の親子だけではなく世界の親子に愛されるサービスを作ってほしいです。一見単純なようですが、これをしっかりとできる企業はそんなに多くないと思います。
今、多くの人がタブレットやスマートフォンの可能性に大きな期待をよせていますが、この期待が現実のものになるかどうかは、これから数年が勝負です。
現時点で子ども向けのタブレットアプリを使用している親子は、ほんの一握り。このサービスが日本全体に広がっていくかどうかは、まだわかりません。
子どもたちのことを本気で考える企業がしっかりと仕事をすれば市場は広がりますが、いい加減な仕事をしていると、市場自体が広がらず、消えていってしまうということも考えられます。スマートエデュケーションさんには、業界の先頭を走る立場としての責任をしっかりと感じながら、良いサービスを作ってほしいですね。
-ありがとうございます。最後に、今後山内先生が挑戦してみたいことについて、お聞かせ下さい。 社会は急激に変わりつつあり、ITがこれだけ世の中に影響を与えている今、教育についても仕組みを変えていかなくてはいけないステージにきていると感じています。まずは最初にお話した「反転学習(反転授業)」に取り組んでいきたいと思っています。ここ数年、名門大学の講義をネットで無償公開するMOOCs(大規模公開オンライン授業)など、誰もが簡単にアクセスできる「オープン教育」という考えが世界で広まっています。2013年9月から東京大学の講座も無料で配信される予定です。
Webの世界では、随分前からO2O(Online to Offline)などの言葉が出てきていますが、教育も同じでオンラインとオフラインをどうつなぐか、オンラインとリアルを融合させてどのような学びにつなげていくかが、今後の教育の一つの鍵になります。
私たちはよく、「学ぶことを学ぶ」という言葉を使うのですが、これからは「どうやって学んでいくのか」ということ自体を学んでいく必要があります。誰かが答えを出してくれる時代ではありません。何をどう学び、自分の将来に織り込んでいくか、それを決めることができるのは本人だけです。

これまでお話したように、ITは子どもたちにとっても色々なチャンスを広げてくれるものだと思います。
子どもたちが自分で自分の道を切り拓けるように、タブレットやスマートフォンに触れられる環境をつくるなど、様々なサジェスチョン(提案)をしながら、ファシリテート(支援)してあげるのが親の役割であり、教育サービスを提供する企業の役割ではないかと思っています。
取材後記
タブレットをはじめとするITデバイスは「親子の対話を映し出す鏡」であり、「教室と社会をつなぐ窓」である、という言葉がとても印象的でした。
今の子どもたちを待ち受けている未来は、今よりももっと複雑で、変化の激しいものかもしれません。そんな未来をたくましく生き抜いていくためにも、新しいことや難しいことにも積極的に取り組める力、世界中の人と何の気負いもなくコミュニケーションをとることができる力が「教育×IT」というものを通して身についていったら、親としては嬉しいな、と思います。
スマートエデュケーションは今後も保育・教育現場や有識者の方々と連携し、小さいお子さんに安心してスマートフォンやタブレットを使って頂けるような取り組みを続けながら、新たな知育の形についても提案していく予定です。是非、今後の産学協同プロジェクトニュースにもご注目下さい。
取材&文:大澤 香織 フリーランスライター。6歳男子+3歳男子の母。これまで塾や幼児教室の講師を経験するなど、「教育」に強い興味あり。絵本大好き&子どもと歌を歌うのが大好きで、家族そろってスマートエデュケーションの知育アプリのファン。
 
 

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